目次−イブラプツァの生き物たち(任地での記録)

 任地イブラプツァに来て一年と6ヶ月が過ぎた。
初めてこの原始の森に囲まれた村を目前にしたとき、その余りにも日本と違う景色に圧倒され、思わずビビッタが、
今となってはその静かなたたずまいに心和む毎日である。
今回は私の任地で観察できる自然の豊かな生物たちをレポートしてみよう。

腸チフスチフス菌。光学顕微鏡にて 400倍 グラム染色
任期1年半経ったころ、仕事から帰って部屋にいるとき、突然熱が40度近くでた。
そしてひどい下痢、ベットに倒れこみ、のどが渇き、だんだん意識が遠のく・・・
気づいたときにはたまたま家にきたカウンターパートによってはたかれて?、目が覚めたときだった・・・
飲み水から感染したらしい。いつもはろ過・煮沸して飲んでるのだが、たまたま煮沸を忘れていたらしい。
ほんとにシャワーのような下痢で一時は脱水のため心臓が止まるかと思った!!!

マラリア赤血球のなかの斑点がマラリア原虫 アノフェレスというシナハマダラ蚊によって媒介されます
任地ではインドの国境側にあり、そこから来る人がマラリアを持っていて蚊によって媒介されて移ることがあります。
わたしは・・・・かかったかも?

蛇(へび)
白、黒、螺旋模様、茶色のやまがかし?、首のところが頭部と同じくらい太いコブラみたいなもの、
アオダイショウ、ハブ、、、等、マナス国立公園が近いせいもあり、
各種の爬虫類が病院の廊下、厨房の配水管、またクヲーター(職員の住居)の配水管の中からも出てくる。
入院患者の大部屋に、とぐろを巻いてるのを、早朝、ナースが発見したこともある。
病院に抗毒素血清があるのか確認したら,一種類はあったが期限切れだったこと、
はたしてこれだけ多種類いる毒蛇に効果があるのか?不安である。
ちなみにローカルの人がかまれたことはないそうであるが・・・

ゲッコー
ヤモリのこと。任地の私の家はブータン伝統工法の木造建築の古い家。
壁の板と板の継ぎ目に隙間が多く、いろいろな生物が出入りしている。
ヤモリもそのうちの一つで黒灰のまだら、茶色、緑、灰白色等とカラフルで、
サイズも3センチくらいの赤ちゃんから、
15センチくらいの大物
まで豪華絢爛である。最近は名前まで付けて、この娯楽の無いイブラプツァの夜を楽しんでいる。
屋内で平均して一日に5〜10匹ほど見つけるが、これの糞が部屋中まき散らかされているので掃除が大変である。

 
私は見たことが無いが、時々僻地のBHU(地方に点点とある小さな薬局のようなもの)へ行ったスタッフが
ツキノワグマ(月の輪熊)を目撃したそうである。
以前、当地の牛飼いの少年が山中で放牧中、こいつに遭遇し、
前足でスマッシュされて片目以外を引っ掻き、
すっ飛ばされて顔のほとんどを失ってしまった。
その少年には道で時々会うが、
いつも顔をミイラ男のようにグルグル巻きにしている。
手術?で命は助かったが、人に見せられない顔になってしまったそうだ。
(写真をとらせてもらおうと思ったが、ダメだった)

 
当地はサブジバザール(野菜市場)もなく、畑で自給自足。当然肉も、、、という訳で、
丘のはずれに豚小屋が数個並んでおり、早朝、村人がせっせと餌を運んでいる。
一本道なので、早朝ジョギングに行く途中にあうと肩に担いだそのバケツの餌の臭さにとても耐えられず、
ぶっ倒れそうになるほどである。

牛馬 
山中のケンパ(地元部族のひとつ)の人たちが、時々牛や馬を連れてやってくる。
病院の周りも草っぱらで、よく牛さんがのんびりと草を食んでいる。
時々道のど真ん中に山のような糞が築かれており、とても狭い道なので通行不能に陥ることがある。
そういえば以前一回だけブータン映画を見たとき、ヒーロー、ヒロインが原っぱで戯れるシーンが会ったが、
お互いに牛のコロコロ糞を(乾燥して丸いの)をお互いに投げたり、なすり付けたりするシーンがあり・・・・
まったくオエゲロものであった♪

 
山から時々猿の鳴き声が聞こえてくる・・・
病院の工事人夫のベンガル人(バングラデシュ人)が山猿を捕まえてきて首に縄をして病院の柱に括り付けて飼っている。
尻尾の短いアカゲザルで、からかうとあの百貨店に売ってある猿の玩具のように、眼と歯を剥いて怒るのでとてもおもしろい♪

 
たまに、赤くて2センチほどもあるオオアリがいる。これに噛まれると飛び上がるほど痛くてたまらない!!

リーチ(蛭)
ひる。普通は2〜3センチくらいで雨の後などで道を這っていることがある。
スタッフの家で水道タップを取り外したところ、直径3センチ、長さ15センチくらいの巨大なヒルを発見したことがある。
山で動物を吸血して馬鹿でかくなったのが水道管にまぎれこんでつまっていたのだった・・・
アウウウウゥゥゥゥゥゥ・・・


イブラプツァにも犬が多い・・・時々インド人Drの家の鶏、ひよこを襲ったりするので、
ドクターが「村の犬を全部殺せ!!」村のブータン人に叫んだことがあったが、
殺生を嫌うブータン人のおかげで今日も病院の廊下を我が物顔に歩き回り、昼寝し、時には犬同士共食いしながらのさばっている。
最初の頃、病院内に各種の野生動物がはびこっているのは不衛生と思ったがこのごろではブータン人同様、
慣れてしまって気にしなくなってしまった。
日本の病院ではこの汚さは、医療施設とは気が狂っても信じられないが、この国では人間も犬もさほど差は無いのだ・・・。
ほとんどのブータン人患者はその臭さといい、ボロ服といい、まんま乞食である。
教育・医療費がただのこの国では、サービス業という、目に見えないものにも金がかかるということを知らないのだ。
はっきりいってここでは人間の赤ん坊も虫けらのように、日本ではなんでもない病気でいとも簡単に死んでいくのだから、
彼らに先進国が医療と認識しているものを与える必要があるのかどうか自体もはなはだ疑問である。
ブータンの医療について考えると馬鹿馬鹿しくなるので最近は何も考えず、日々の業務をこなしている。
おっと、だいぶ脱線してしまった・・・ちなみに私の宅にも犬が住み着いているので、時々餌をやったりする。

(昆虫編)

南部ブータン、亜熱帯に属する当地、マナス国立公園も近く、豊富な昆虫が観察できる。
春先は蝶が大発生し、20センチくらいもある黒、赤、茶、黄、白、と
カラフルなアゲハチョウ、ヨナクニサンという20センチ以上にもなる蛾、等、とにかく大型である。
バッタも15センチくらいの化け物サイズのクツワムシ、3本角のカブトムシ、緑色のセミ、飛びナナフシ、
空飛ぶ大ゴキブリ、各種のクモ、突然大群で山から下りてくるミツバチの大群、スズメバチも部屋に入ってくる・・・・・。
原始林ジャングルに入ればもっといろいろな生き物が見れるだろう! 遺伝子情報の世界的な宝庫には違いないと思う。

毛虱(毛じらみ)
天気の良い休日など、軒先で女、子供が猿の毛づくろいのようにお互いの頭髪の中を探り合っている。
何だろう?と思い近寄ってみると、毛の根元に白い虫が蠢いている。毛じらみである・・・・(@_@)
病院職員の宿舎は狭く、便所の中で水を浴びるだけなので、たまに天気の良い日は軒先でバケツに水を貯め、
シャンプーしているが、おそらく月に1〜2回しか頭は洗えないようだ。
ケンパの女性は美人が多い。(ブータン女性ではケンパが一番美人が多いと思う)が、
サルのように毛じらみを取り合っているのを見て、以来はやはり美人だろうが、彼らは野生動物と同じだ、
と思うことにしている。(毛じらみは感染すると、死ぬほど痒くて大変なので皆さん、注意しましょう(^○^)

◆◆◆◆◆◆おまけ◆◆◆◆◆◆

狂女
時々乞食様の女が、曲げた木の枝に糸を張って「ビンビロ〜、ビンビロ〜、」と、演奏しながら
山から下りてきて歌いながら病院のなかを歩き回っている。
この人は一年程前、自分の家族と食事中、いきなりギチュ(小刀)で前に座っていた兄弟の額を叩き割り
(幸い病院で手当てが早かったので命は助かったが)病院にかつぎこまれたとき、村人に捕まえられ、
村の入り口の柱に縄で縛り付けられたことがある。
当地には警察が無いし、ブータンには精神病院も無いし、野放しにされている・・・とても危険である!

山の少年
当地の住民であるケンパのほとんどは車も通れない山奥に住んでいる。
時々、病院の明かりに引かれて(蛾か?)マウンテンボーイが降りてくる・・・
夕方など病院の屋根の上などを走り回り、「ホーウ、ホーウ」と、フクロウのように叫びまわっている。
ブータン人に聞くと彼らは高いところに上がると嬉しいらしく、喜びの声だそうです・・・

中学生
病院の横に唯一の学校、YJHS(イブラプツァ中学校)がある。生徒の多くは麓のティンティビ村からくるのだが。
歩くと1〜2時間かかるので 時々通りかかる建設用トラックの荷台に満杯に乗っかって
運ばれてくるのを目にする(彼らはクルマに乗ると嬉しそうに歌を合唱する)。
ちなみに病院の外来患者も帰りの空の荷台に材木のように載せられて運ばれていく・・・。

 

おわりに

以上、任地でであった生物 & 人々 を思いつくまま記述してみた。
まだ他にも日本には無いめづらしいモノもあると思う。
任期も残り少なく数ヶ月を残すことになった時、私のとってこの2年間はマラソンのようだったと思う。
走っている間は果てしなく続く自己との戦いである。孤独で苦しい戦い。
そして いつの日か、この文明から遠くはなれた神秘の山奥に住む不思議な人々のことを語り伝えるときもくると思う。
それまで、無事にここから脱出できるように無理なことはせず、謙虚に振舞い、ブータン人たちとうまくやりながら、しかし注意深く彼らを観察しながら、隊員活動 を 継続しました。
 

 
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